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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)12180号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一一二〇万九九四〇円及びこれに対する昭和五七年一〇月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五五年三月二〇日、被告から、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)及び本件建物所有を目的とする本件建物敷地(以下「本件土地」という)の土地賃借権(以下「本件借地権」という)を代金六五〇万円で買い受けた(以下「本件売買契約」という)。

2  本件土地は、南側は幅員約六メートルの公道に接していたが、北側は高さ約四・四メートルの崖となっており、この崖には、約二メートルの高さのコンクリート擁壁の上に高さ約二・四メートルの大谷石の擁壁が積み上げられた、いわゆる二段腰の構造の擁壁(以下「本件擁壁」という)が設置されていた。

3  本件売買契約当時、本件擁壁には、次の三つの瑕疵があった。

(一) 本件擁壁には水抜き穴が設けられていなかった。水抜き穴を設けなければ土が水分を含んで膨張し、そのため擁壁に圧力がかかり、擁壁はその圧力で崩壊する危険にさらされるから、水抜き穴が設けられていないことは瑕疵である。

(二) 本件擁壁はいわゆる二段腰の構造であり、地盤面から一直線に直結して設置されていなかった。擁壁は本来土圧がかかるので地盤面から一直線で直結しないと土圧により崩壊する危険にさらされるから、本件擁壁がいわゆる二段腰の構造とされていたことは瑕疵である。

(三) 本件擁壁に大谷石を使用していた。大谷石は水分を含みやすい性質があり、水分を含むと土圧に耐えられず崩壊する危険にさらされるから、本件擁壁に大谷石を使用したことは瑕疵である。

4  原告は、被告からも仲介の不動産業者からも右瑕疵の存在につき全く説明を受けず、右瑕疵を知らないで本件売買契約を締結したものであり、素人として右瑕疵を知らなかったことにつき過失はないから、右瑕疵は隠れた瑕疵というべきである。

5  昭和五六年一〇月二二日、本件土地のうち本件擁壁側部分は、雨水により沈下及び傾斜し、構造耐力上又は保安上著しい危険が迫ったため、原告は本件建物を取り毀した。

本件土地が右のように沈下及び傾斜したのは本件擁壁に存した前記の瑕疵が原因であり、このため原告は本件売買契約の目的を達することができなくなった。

6  原告は被告に対し、昭和五七年七月三一日到達の内容証明郵便により、民法五七〇条、五六六条一項に基づき本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。

7  原告は本件売買契約における前記瑕疵により、次のとおり合計金四七〇万九九四〇円の損害を被った。

(一) ローン利息及び同手数料    金一二八万円

(二) 家屋補修・取壊料       金三一万三五〇〇円

(三) 引越及び家賃(五年分)相当額 金三〇五万円

(四) 登記火災保険料        金六万六四四〇円

よって、原告は被告に対し、支払済みの売買代金六五〇万円と損害金四七〇万九九四〇円の合計金一一二〇万九九四〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年一〇月一六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2については、本件土地の南側が幅員約六メートルの公道に接していること、本件土地の北側は崖となっていることは認め、その余は否認する。

3  請求原因3については、本件擁壁に大谷石が使用されていることは認めるが、その余は否認する。水抜き穴は設置されている。

4  請求原因4は否認する。

5  請求原因5については、本件土地に一部沈下と一部傾斜が生じたことは認め、その余は不知。本件土地は契約時はもちろん契約後も何ら異常はなかったのであるが、昭和五六年一〇月二二日関東を襲った第二四号台風の大雨で本件土地を含む周辺の崖部分が崖崩れや沈下並びに傾斜を生じるに至った。しかし原告は早急に本件擁壁の改修補強をしないまま、ただ本件土地の所有者(賃貸人)である高木義敦らに改修補強の請求をしたり、また北区役所にその旨の勧告をしてもらうだけであった。そのため、その後の降雨に伴い、除々に本件土地は沈下、傾斜の度合を強めたのである。

6  請求原因6は認める。

7  請求原因7は否認する。

三  抗弁

原告は、本件売買契約解除の意思表示をする前に本件建物を取り毀して、解除に伴う原状回復を不能とした。従って、右解除は失当である。

四  抗弁に対する認否

争う。本件建物は経済的耐用年数をはるかに越え、無価値に等しく、売買代金は本件借地権の価格であった。

第三  証拠(省略)

別紙

物件目録

所在    東京都北区十条仲原四丁目八番地

家屋番号  一六七番一三

種類    居宅

構造    木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積   三三・〇二平方メートル

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